初めて出会ったのは2016年、國母和宏と平野歩夢を招いた弊誌「BACKSIDE」のローンチパーティー。当時11歳の大翔は、親子で来場し、世界トップライダーたちの言葉に真剣に耳を傾けていた姿が忘れられない。翌年には工藤洸平の映像作品の試写会にも顔を出し、北京五輪ビッグエア金メダリストとなるスー・イーミンと並んで客席に座っていた。幼い頃からスノーボードカルチャーの最前線に身を置いてきた存在だ。
　あれから9年。日進月歩で進化を続ける大翔は、すでに想像を超える領域に立っている。オリンピック種目として8回目を迎えるスノーボードが競技性ばかりを追い求めているなかで、彼の根底にあるのはカルチャーとしてのスノーボーディングだ。筋トレよりも滑りたいと笑い、遊びの延長線上で世界記録を更新していく。その姿に、未来を切り拓く光を感じる。

written by Daisuke Nogami

　幼少期からネコマ マウンテン（旧猫魔スキー場）で滑り続けてきた大翔。その原点には、父・崇之さんの存在がある。自身がかつてハーフパイプ造成に携わった山で、息子を遊ばせ、地形に合わせた練習を積ませたことで自然と上達の道を歩んだ。3歳で始めたスノーボードも、最初は父が「一緒に遊びたい」という思いからだった。
　息子が前人未踏の2340スピンを決めても、驚きはないという。それは長年の積み重ねをもっとも近くで見てきたからだ。大翔は一見チャレンジャーに見えて、実は徹底した慎重派。頭の中で完全なイメージを描けるまで、新技には挑まない。その姿勢がケガを避け、世界記録を更新し続ける原動力になっている。
　横乗りカルチャーの中で育ちながらも、家庭ではきわめて真面目。その誠実さこそが、世界のHirotoを支えている。

written by Daisuke Nogami
Special Thanks : 父・荻原 崇之

　自身もオリンピアンであり、SNOW JAPANのコーチとして数多くのトップライダーを指導してきた西田崇が、大翔と初めて出会ったのは2017年。小学6年生ながら高回転スピンを操る姿に驚かされる一方で、エアの高さが足りないと指摘した。翌年にはその弱点を完全に克服し、迷いのないジャンプを見せたとき、西田は「世界一になれるかもしれない」と直感する。
　その後、大翔は世界最年少でのバックサイド1800に成功し、世界初の2160を決めるなど、前人未踏の領域を切り拓き続け、2025年「X GAMES」では常識を超える2340をメイクして金メダルを獲得。それでも満足することなく、さらなる高みを求める。自ら映像を分析し、修正し、貪欲に挑戦を続ける姿勢。西田の目に映るのは、技術だけでなく、人間性でも愛される世界一のスピンマスターだ。

written by Daisuke Nogami
Special Thanks : 西田 崇（スノーボード日本代表テクニカルコーチ）

　7歳での公式戦デビューから、13歳で1440、15歳で1800を世界最年少で成功──その舞台は常にネコママウンテン（旧アルツ磐梯）のパークだった。アイテム造成を手掛けてきた国内最高峰のパークビルダー・山田雄二は、大翔の滑りに何度も想像を超えられてきたという。
　山田の哲学は「安全であること」。滞空時間を確保しつつ、失敗しても大ケガに至らない形状を徹底する。だからこそ大翔は、世界初の2160を決める直前もネコマにいた。そして、W杯で勝った直後も変わらず、ネコマで練習を重ねている。
　積み上げた環境があったからこそ生まれた数々の世界記録。「X GAMES」で2340を決めた大翔は、さらにそれ以上を狙っている。これからネコマとともに歩んでいくその姿を見届けることが、山田にとっても夢の実現につながるのだ。

written by Daisuke Nogami
Special Thanks : 山田 雄二（ネコマ マウンテン パークビルダー）